アーセナルがヨーロッパで勝てない原因

いきなり、最初から、難題に入ってしまいました。音楽とサッカーの関連性を探っていくのがこのブログなのですが、アーセナルが、あのように素晴らしいサッカーをしながら、ヨーロッパチャンピオンズリーグにおいて、まったくいい成績を残せないでいる事に、疑問を持っている方は多いと思うのです。


でも、リズム、と言う観点で見ると、わりと簡単に疑問は解けるのです。


もともと、イングランドやドイツ、ならびに北欧のチーム(ざっくりいうとアングロサクソン系)のチームは、リズムの変化に乏しいです。ビートルズローリングストーンズをはじめ、最近では、オアシスでしょうか。8ビートのロックンロールが基調なので、変則的なリズム感は、はっきりいって無きに等しいです。


アーセナルの躍進(復活?)は、もちろんベンゲル監督が就任してからですが、ベンゲル監督は、国籍はフランスですが、出身地はフランスでも、アルザス地方。アルザス地方と言うと、有名な「最後の授業」の舞台になった場所で、アルザス地方の中心地である、ストラスブールも、綴りは、「Strasbourg」と、ドイツ語のような綴りをしています。ベンゲルさんも綴りは、「Wengel」で、「W」が「ヴ」の発音になるあたり、ドイツ系の姓です。ですから、名古屋グランパス時代にも感じた事ですが、フランス人が普通持っているようなリズム感ではなく、常に一定のテンポでリズムを刻み続ける、ドイツ的なリズム感を持っています。


そのベンゲル監督の率いるアーセナルがドイツ的なリズムを持っているのは当然で、現代のモダンフットボールでは、リズムの変化をつける事が大切な要素になっているので、畢竟、旧来のイングランドやドイツのチームは、苦戦して当然です。チェルシーリバプールのような「多国籍軍」は、当然強いわけです。モウリーニョベニテスイベリア半島出身。リズムは複雑なものを持っています。



じゃあ、マンチェスター・ユナイテッドバイエルン・ミュンヘンは?と言う声が聞こえてきそうです。
この2チームは、強力なサイド攻撃を持っています。マンチェスター・ユナイテッドは、ベッカムギグスC・ロナウドと強力なサイドのプレーヤーを擁していて、真ん中に、以前であれば、コール&ヨーク、現在なら、ファンニステルローイ、という、「ドンピシャのクロスを入れられたら、防ぎようの無いフォワード」を持っています。バイエルンは、いつも大型のセンターフォワードを擁していて、攻めが手詰まりになると、どこからでも正確なクロスを入れてきますね。現在のマカーイは、空中戦が得意なプレーヤーではないですが、その分はバラックが補っています。サイドには、シュバインシュタイガーリザラズゼ・ロベルトサリハミジッチ、と、サイド攻撃が出来る選手が揃っています。



翻って、アーセナルですが、そもそもサイドアタッカーとか、真ん中の空中戦に強いフォワード、と言う概念を持っていません。ある意味、選手の自主判断によって、ボールと人が動く、非常に能動的なサッカーをしているともいえますが、基本のパターンがない、つまり、攻めが、手詰まりになった時の頼れる武器がありません。「とにかく困ったらこれ」と言う必殺技を持っていると、だいぶ違うのですが、ベンゲル監督に欠けているのは、その発想です。実は、その発想を補うには、決定的な仕事の出来るプレーヤーがいればいいのです。それが、ベルカンプなのです。これで、ヨーロッパで勝てない理由がはっきりしてきませんか?アウェーの試合に、ベルカンプがピッチに立った事がこれまでどのくらいあったでしょうか?もともと、守備に重点を置いたチームではないので、攻めが手詰まりになった時、決定的な仕事が出来る選手がいないと、引き分けるのがせいぜいになります。



残念なのは、本当は、もっと早くベンゲル監督はヨーロッパで成功出来る可能性があった事です。名古屋グランパスを離れて、アーセナルの監督に就任する際、ストイコビッチに「一緒に来ないか」と声を掛けて、アーセナルに誘っているのです。ストイコビッチが、セルビア人でなければ、イングランドでのプレーも抵抗無かったでしょう。それであれば、ベルカンプより、はるかに決定的な仕事の出来る選手が、アーセナルに入っていた事になり、アウェーの試合で、手詰まりになる、と言う事もなかったと思います。ストイコビッチが、名古屋でのプレーを続けたのは、政治的な理由に他なりません。



アーセナルは、リズム的には、旧来のドイツやイングランドのチームと同じリズムを持っています。最後のフィニッシュで、リズム的に変化をつける事が出来れば、ヨーロッパでも勝てるでしょう。また、中盤で、タメを作る、と言う発想があれば、もっとずる賢い戦い方が出来たかもしれません。しかし、その辺は、どうしてもイングランドのチームの範疇を出ないのです。アーセナルのサッカーは、実は、アルゼンチン代表にすごく似ています。ショートパスが、次々とつながっていって、あれよあれよと言う間に、ゴールに迫っていく、と言う過程は、見ていて魅了されるものです。ただ、アルゼンチンには、中盤でタメを作る発想もありますし、スルーパスを出す、決定的な仕事の出来る選手がいつもいます。この問題は、ベンゲル監督の限界、とも思えます。現時点で、引退を表明している(この人はいつ言を翻すか分からないですが)ベルカンプの、後がまも定まっていないようです。アーセナルが、今後、どのような判断を下すか、楽しみでもあります。