アンカーとベーシストの関係

最近、3センターのチームが多くなってきて、「アンカー」という言葉が、復活してきましたね。


実は、オフト監督の時から、ディフェンシヴハーフの役割として、滝井先生の本にも書かれていました。
ディフェンシヴハーフの役割
1.リンクマン
2.アンカー
3.フォアリベロ
だった様に思います。
アンカーですが、「碇」の意味ですね。まあ、日本人的には、「重し」というような感じのほうがしっくり来ますか。


ただ、リンクマン、と考えた時、音楽との共通性を感じないわけにはいきません。


音楽の3要素と言うのは、
1.リズム
2.ハーモニー
3.メロディー
です。
バンドをやった事のある方なら、普通に知っている事と思いますが、普通、バンドの基本形態として、ドラムス、ベース、ギター(orキーボード)、ヴォーカルというのがあります。



このうち、ドラムスをDFに例える事が出来ます。リズムを担当するわけですが、基本パターンは決まっています。リズムパターンと言うやつですね。サッカーに例えると、3バックか4バックか、どこまでマンマークで、どこまでゾーンマークか。パターンが決まっている、というのをサッカー的にいうと、カバーエリアが決まっている、という事になります。


ギター(orキーボード)ですが、ハーモニー担当ですね。ハーモニーと言うより、コード担当、という方が馴染みやすいかもしれません。コードワークは、サウンドの「色」を決めてしまうと言う点で、非常に大事です。ヴォイシングと言うのがありますが、同じコードでも、ヴォイシングによって、響きが違います。これをサッカーに言い換えると、ハーモニー担当はMFと言えます。ヴォイシング、というのは、コードに含まれる音のうち、どの音を鳴らすか、という事です。サッカーでいえば、中盤の創りのうち、パスなのか、ドリブルなのか、センターの展開なのか、サイドの突破なのか、ラストパスなのか。ハーモニーと同じく、調和、連動が求められます。


ヴォーカルは、メロディー担当ですね。別にヴォーカルである必要はなく、インストゥルメンタルなら、ソロ楽器の奏者ですね。メロディーと言うのは、かなり自由が利きます。はっきりいって、バンドの中で、もっとも無責任でかまわないです。リズムとハーモニーがしっかりしていれば、メロディーはよほど外さない限り、うまく乗せる事が出来ます。また、自由奔放さが有ると、より魅力的です。分かり切ったメロディーほど、聴いていてつまらないものはありません。サッカーに置き換えるとFWです。多少の失敗は、かまわないです。自由奔放な方が相手ディフェンスも苦しみますし、観客は楽しめます。また、背後がしっかりしていれば、多少強引だろうが、はちゃめちゃだろうが、全体の流れを止めるような事は、ありません。メロディーには、人の心に訴える力がありますが、それは、人の心の「ツボ」にはまった時です。FWにとって、「ゴール」ですね。



さて、アンカーですが、モダンフットボールでは、非常に大切なポジションです。ここの選手の能力によって、チームの消長が決まる、といっても過言ではありません。実は、ベーシストも同様です。



ベーシストと言うのは、コードの一番根っこになる音(ルートと言います)を鳴らす役割があり、ベーシストが間違えると、コード(ハーモニー)が台無しになります。何のハーモニーか分からなくなります。音は一つですが、間違えると、不協和音になります。また、実は、ドラマーのリード役でもあります。ベーシストとドラマーをまとめて、「リズム隊」と呼びますが、ベーシストは、リズムもしっかりしていなくては、楽曲の「ノリ」を創る事が出来ません。「ノリ」というのをより音楽的な表現でいうと、「グルーヴ」というところでしょうか。また、曲の構成を一番把握しているのも、ベーシストです。ベーシストは、リズムの役割がある以上、曲の構成をしっかり把握していないと、繰り返しの個所を間違えたり、小節数を間違えたり、というような事があってはいけません。


というのは、ドラムと言うのは、たいてい一定のリズムパターンがあるので、小節数を間違えても、あんまり曲を台無しにする事がありません。曲の中の変わり目で、いわゆる「オカズ」を入れる事は当然行われますが、これを忘れてしまっても、聴いている人にとっては、それまでのリズムパターンを守っていれば、「ずっこける」というほどの大事には到りません。DFが、マークする相手をしっかりつかんでいれば、フリーでシュートを打たれるような事はありません。基本的に、誰を見るか、というパターンさえ守っていれば、守りそのもの(リズムパターンそのもの)を間違えない限り、致命的な失敗には到りません。


また、ハーモニーを担当する楽器と言うのは、ヴォイシングや、コードを間違えてしまってはいけませんが、それを一番気にするために、曲の構成、つまり小節数とか、曲の変わり目、とかは、全部把握すると大変です。そんなことをしていては、ヴォイシングがおろそかになってしまい、ハーモニーがズタズタになります。ハーモニーがズタズタになると、聴いている人に、すぐにばれます。そんな事をやると、「下手なバンド」といわれてしまいます。ですから、コードを鳴らす事に細心の注意を注ぐので、曲の構成は、リズム隊にお任せ、という状況でないと、いいパフォーマンスが出来ません。MFが、連動して、有機的な動きをするのに、ディフェンスばかりに追われていると、ろくな攻撃が出来ません。プレスが乱れれば、ディフェンス全体の足を引っ張ります。それぞれの特徴(ヴォイシングの上手さ)がしっかり発揮されていれば、より機能します。


メロディー担当の、ヴォーカルやソロ楽器ですが、とにかく、その役割を全うすれば、あとは、形式にとらわれる事はありません。リズムとハーモニーが基調になっているので、それを完全に無視するような事さえしなければ、聴いている方が、「ガクッ」と来るような事はありません。とにかく、聴いている人の「ツボ」(ゴール)にはまれば、アドリブ(個人プレー)でも、決めた方の「勝ち」です。また、ヴォーカルにしろ、ソロ楽器にしろ、メロディーをやっている以上、分かり切った事をしても、面白いとは感じてもらえません。フリーになる動き、フェイントやポジショニングの工夫、という事が無いと、ゴールを決める事が出来ないのがフォワードです。聴いている人(ディフェンダーゴールキーパー)に読まれるような、分かり切った事をしていては、仕事になりません。


で、ベーシストですが、小節数や曲の構成を一番把握していなければならないので、ベーシストが、もし、小節数を間違えたり、本来盛り上がるメロディーのところで、間奏のパートに行ったりすると、全体がコケます。ベーシストが、構成を見失うと、ドラマーもハーモニー担当の楽器も、みんな曲を見失います。メロディーだけは関係なくやっていけますが。ですから、ベーシストがコケると、誰の耳にも明らかに、曲が迷走し始め、というより、演奏がバラバラになって、もはや曲がぶちこわしになります。ベーシストは、リズムとハーモニーを「リンク」する役割があります。両方を見ながらやらなくてはならないので。サッカーにおいて、アンカーが、「プレーメーカー」であるチームは多いですよね。プレーメーカーと言うと、「司令塔」や「ゲームメーカー」より、全体のコントロールを効かせる役目が大きいです。「ノリ」を創らないと、チームが、流れに乗れません。アンカーが、役割を見失うと、失点(曲が台無し)の危険性が高まりますし、ポジショニングのミス(演奏のミス)が有ると、DF(リズム)もMF(ハーモニー)もボールの収めどころ(曲の構成)が明確でなくなり、全体が迷走し始めます。観客が、見ていて、「ありゃダメだ」となるところです。アンカー(ベーシスト)が、「重し」にならないと、チーム全体が(バンド全体が)不安定になり、プレー(演奏)が乱れ、観客は観ていられません。「グダグダ」になります。アンカー(ベーシスト)が構成を見失うと、チーム(バンド)全体のパフォーマンスが、収拾がつかなくなります。それぞれが、勝手にやっているように見えてしまうのです。DF(ドラマー)も、MF(ハーモニー担当)も、それぞれ役割をきっちり果たしていても、「重し」であるアンカー(ベーシスト)が「重し」でなくなれば、全体が台無しになってしまうのです。


アンカーもベーシストも「地味」ですが、ここがコケると、全体がコケます。アンカーがバイタルエリアをフリーに開けていたら(ベーシストが曲を見失ったら)、点(曲の伝えるもの)が、簡単に失われます。

バンド経験のある人は、ライヴなどで経験が有るかもしれませんが、ベーシストが外した場合、演奏自体が何が何だか分からなくなってしまう経験を持っていると思います。みんな、「ドタバタ」になってしまい、それぞれが、あさっての方向へ向かっていってしまいます。


アンカーが、役割を果たさないと、ゲームコントロールが効きません。主導権が握れなくなり、チームの方向性が、あさっての方向へ行ってしまいます。


バンドとサッカーの両方の経験が、そこそこある人でないと分かりづらい話ですが、「重し」が無いと、ふわふわとどっかへ行ってしまう事は、何においても共通する事でしょう。


あ〜、この持論を展開するのに、大変な長さになってしまいました。ここまで読まれた方は、90分しっかり集中出来る人です。サッカーを観るのに、適性があると言えるでしょう。